第11話 「決戦! エルマVSブール」 1
押し寄せてくる炎からエルマは間一髪で逃れる。しかしそのために愛馬を犠牲としてしまった。炎に包まれ苦しみいななく馬に顔を歪め、エルマは炎が向かってきた方向を睨みつけて手早く引き絞った弓から矢を放つ。普通の魔者であれば抵抗する暇もなかったであろうそれを炎を放った魔者は口で噛み止めた。上下の歯と歯の間に挟まった矢は余韻を残して揺れている。
「……くそ、何だこいつ!?」
自分より2倍3倍は大きい――というより肥えている肉だるまにエルマは足を踏み鳴らした。すると、問うたわけではないのに肉だるまが知性を微塵にも感じさせない様子で喋りだす。
【オデ、ブール。オ前ノアイデスル。オデ、オ前ヨリズット強イ。オ前、オデガ喰ウ】
たるんだ顔の肉を更にたるませ体中のぜい肉を震わせるブールに、エルマは一気に不機嫌になる。ポーカー騎士団にいた頃から今日に至るまで鍛錬を重ねてきた。今では並大抵の魔者相手では苦戦するほうが難しい。であるのに、こんな肉の塊に負けるなどもってのほかだ。こんな奴すぐにのしてとっとと先に進もう。そう決めてエルマは烏葉を握り直してブールに向かっていった。大きく振るわれた刃先がその肉を切り裂くかと思ったその時、それは寸分の差でブールの体を通り過ぎる。
エルマは軽く目を見開いて今度はもっと速く烏葉を繰り出した。しかしそれもまた、今度は先以上の間を開けて外れる。さすがにおかしいと思って2、3歩後退るエルマ。だが。
【逃ガザナイ】
言葉と共に炎が巻き起こり円形にエルマとブールを囲んだ。即席の炎の檻が5秒もしないうちに完成する。16方から押し寄せてくる熱気にエルマは顔の前に手を持っていき目を細める。その彼に、ブールはとてもつまらなそうに様子を見せた。
【オ前ヤッバリ弱イ。先代ノグラブハモッド強ガッダ。ギラギラジタナイフミダイナヤヅデ、オデ、勝テナガッダ】
「うるせぇ! おっさんに勝てたなら俺だって負けねぇよッ!!」
言下に地面を蹴ってエルマは瞬く間にブールの懐にもぐりこんだ。かがめた上半身を起こす力に大地を踏みしめる力を加えて一気に烏葉を振りぬく。今度こそ確実に腹の中心を捕らえた。だが、何故だろう。手応えがない。あの、肉に刃を食い込ませる感触が伝わってこない。いぶかしんでいると、ブールの体が揺れて消えた。息を呑み行動を忘れたのは一瞬。しかしその一瞬でブールはエルマの後ろに移動していた。振り上げた図太い腕は先を拳骨にして躊躇の一切を持たずに側面から若いクラブを襲う。
骨がきしんだ音が聞こえたその時にはエルマは吹き飛ばされていた。数秒の不本意な浮遊の後地面に叩きつけられ激しく咳き込む。どれだけ拳の面積があるのだと意味を成さない文句を頭に、荒れる息を整えながら立ち上がると、その体型で良くぞここまでと褒めたくなるほど足を上げてブールが腹を蹴りつけてきた。体格に合った重い一撃にエルマは掠れた声と多量の息を吐き出す。胃の中のものが逆流しそうになるのを必死に耐えて烏葉を突き出したが、それはあっさりと弾かれてしまった。それどころか伸ばした左手を取られ、片手一本で軽々と後方に投げられてしまう。