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第11話 「決戦! エルマVSブール」 2
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 再び空に上げられたエルマは安定のないそこから早々に逃げ出そうと両足に力を込めた。ずきずきと体中に鈍い痛みが走るがそれは気のせいと決め込む。思惑通り落下が早まってくれたおかげで自分を狙っていたらしい火球は危機一髪で交わすことが出来た。尾を引いていた髪の端が音を立てて焦げたようだが命に比べればなんてことない代償だ。両足が大地に着く。足の裏から脳天に振動が走りぬけた。苦痛に喘ぎそうになるのを必死に耐え、エルマは迫ってきていたブールに烏葉を突き出す。ブールは再びそれを弾いてエルマに手を伸ばしてきたが今度はエルマにも用意があった。右手で腰に差していた剣を引き抜き烏葉を握る左手を掴もうとしてくるブールの手に強くつきたてる。耳障りな悲鳴。剣を引き抜けば黒い血が噴き出した。

 ブールはカッと両目を見開いて丸めた拳でエルマのこめかみを殴りつける。脳を揺さぶる衝撃にエルマは横様に吹き飛ばされ倒れた。ブールは狂ったいかれたように両腕を振り回す。

【弱イグゼニ、弱イグゼニオデニ傷付ケダ! 弱イグゼニ弱イグゼニ弱イグゼニィィィ!!】

 平衡感覚がいかれてしまったのか立てずにいるエルマは、いきなりわめき出した魔者を見て、苦しげに歪めていた顔に更に焦燥を加えた。どうやらこの肉だるまは相当自分の力にプライドを持っていたらしい。そしてエルマのことは見下していた。自らの力に驕る者が弱者と判断した者に一矢報いられるのがどれだけ腹立たしいか知っているエルマはこの後どれだけ考えなしの猛攻が来るかと嫌な汗をかく。そして少しもせず、その時は来た。狂ったように雄叫びを上げて振り回されているブールの両の腕から火球が次から次へと生じ四方八方に投げ付けられていく。そのうちのいくつかが自分の方へ向かって来るのを見て、エルマは歯を食いしばり全身の力と神経と集中力を駆使して立ち上がり倒れこむように左後方へと飛びのいた。その際避け切れなかった火球に右腕を焼かれる。

「――――――――〜〜〜〜〜っ!!!!」

 なんという熱か。一瞬で右手が焼けただれ痺れ出した。最初は何も感じなかったが、半呼吸もしないうちに痛みが突き抜けてくる。その上背後はすぐに炎の壁。酸素が薄い場で、少しもせずに呼吸が乱れ目が眩んだ。立ち上がろうとしても体を支える手足は震えて力を入れることを受け入れない。自分の体の扱いに困っていると、完璧に正気をなくしたブールがまた大声を上げた。ぼんやりとかすむ視界でその姿を映せば天に向かって大きく開け放たれ口の上にこれまでの比ではない炎の塊が生成されつつある。

 この上あんなものを喰らったら確実に死ぬ。楽観出来ない状況にエルマは上手く動かない体を必死に立ち上がらせようとした。

 その時、その背後から聞き慣れた声がする。

「何寝てんだボーヤ」




 

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