第11話 「決戦! エルマVSブール」 4
「〜〜っ、ふざけんじゃねぇっ!! 今のクラブはオレだっ。おっさんは引っ込んでやがれッッ!!」
全身の力を使って放たれた声は高く高く空へと向かった。それに吹き払われたかの様に真上で雲が割れる。一条の光がエルマに降り注いだ。それに照らされ、かつ自ら発光した烏葉が、姿を変える。光が晴れたとき、左手の先にある武器はクラブ型の刃を持つ鉄の棒ではなく、長柄の大薙刀だった。意思ある武器は改めて、エルマ・ウロンドを主と認めたのだ。
これで自分はもう烏葉を持てないな。そう考えるクレイドの顔には惜しがる様子は微塵にもない。ただ安堵と、満足感が浮かんでいる。
【アアアアアアアアアアアアアアァァッッッ!!】
絶叫。と同時に直径60センチほどまで大きくなった火球が放たれる。その熱や今までの比ではない。中空を流れ向かってきているというのにその通り道に沿って地面が焼け焦げていった。だがエルマに恐怖はない。改めてその全てを自分に任せてきた烏葉が語りかけてくるのだ。
「恐れることはない」と。
「魔者を倒すというその意思があれば自分は奴らに負けない」と。
それは10年来の親友からの言葉のように抵抗なくエルマの中に入ってくる。エルマは大薙刀を構えて駆け出した。烏葉の助けで痛みはない。一時的にだが、武器たちは魔者と戦っている最中倒れることのないように痛みの大半を消してその主を支えるらしい。「駆けろ」と告げた烏葉が教えてくれた。エルマは触れれば骨まで溶けそうなほどの熱を放つ火球を睨みつけ、まだ離れている位置から大薙刀を振るう。通常よりも長いそれは楽々火球にその刀身を届かせ、2、3度手首を返しただけでそれを斬り刻んだ。そして細かく分割された火球は程なく掻き消える。すれ違いざまにその残滓が左肩を焼いた。しかしエルマはひるまずに、正気に戻って青ざめているブールに向かって駆けていく。
正気が戻っても落ち着きは失ったのか、ブールは両手をばたつかせるだけで何もしない。
――否。その体が歪んだ。にやりと唾液に塗れた唇を上げるその顔は先とは真逆の位置にある。ここからこの若いクラブに最後の一撃を与えるのだ。そう思ったブール。しかしその顔面を横一文字……いや、三文字に何かが通り過ぎる。何かと思う間も無くブールの視界は自らの黒い血によって染まった。苦痛に叫び声を上げるその耳に、エルマの声が届く。
「お前見た目によらず頭いーのな。陽炎使うなんて炎使う魔者じゃなきゃ出来ねーよ」
見破ったのは倒れる前だったか。陽炎とは熱くなった空気で光が不規則に屈折されて起こるもの。この魔者は意図的にそれを使い即席の分身を作り上げた、ということだ。
「でも見破れたから。オレの勝ち」
じゃあな。別れの言葉と共に、先の襲撃の直後クローへと姿を変えた烏葉でその首をかき切る。右手が使えない状態であの大薙刀はつらいと思った矢先の変化であったが、エルマは見事にそれを使いこなした。
噴き出す黒の噴水。その噴射口たる魔者は両膝をつきだらしなく両手を垂らし、すでに絶命している。気が付けば炎の壁は消え去り、あれだけいた魔者も残り少ない。次から次へと湧いて出てきていた魔者の流れが止まったのだ。エルマは大声でもうひとふんばりだと告げる。応え、クラブ・ジョーカー隊から喊声が上がった。
その様子を見て、クレイドはまた笑う。
烏葉に認められる条件。それは何かを成し遂げようとする意思・積極的に何かをしようと思う気持ち。つまり、意欲を持つこと。エルマが認められなかったのは、何事にも受身で、必要なことならば教えてくれるだろうと甘えていたから。駄目になったら誰かに任せればいいと思っていたから。――まあ、18の少年が年上に囲まれている状況で甘えが出るのも仕方なかったことなのかもしれないが。
しかし今、彼は自分の意思で武器を取り、立ち向かった。だからこそ、烏葉は彼を認めたのだ。
「さぁ、俺ん所は終わったぜラムダ。次はお前のトコだな」
小さく口を開けた雲の向こうからの光を見上げ、クレイドはここが片付くよりも早く先へ進んで行った旧友に向けて呟いた。