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第12話 「決戦! アズハVSメーリッド」 2
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 一方ラムダは一人流れの違う態度で、膝をついたままのアズハの首根っこを掴んで引きずり起こした。その際、喉がしまって咳き込んでしまう。

「ラ、ラムダさ……!!」

「アズハ、何故こだわる?」

 中途半端な体勢でとめられたのが辛くなり離してくれるように頼もうとしたのを遮った言葉にアズハは口をつぐんだ。ラムダは続ける。

「普通に戦おうとしないのは何故だ?」

 抑揚のない声。だがアズハはどこかに彼の怒りを感じていた。

 答えられずにいると、前触れもなく放り出されてしまう。先に氷付けにあった足がようやく回復してきた矢先の出来事であったので、アズハは無様に両膝をついてしまった。

「――アレ相手に、茜日が必要か?」

 そう言ったラムダの言葉にアズハはハッと彼を振り仰ぐ。彼が何を言いたいのか悟ったのだ。すぐに否定を口にしようとするアズハだが、ラムダは言い訳すら許さなかった。

「それなら帰れ。その力に頼らねば戦えない者が戦場に立って何が出来る。お前は隊下の13人の命を背負っているんだぞ」

 ――言い訳を許されなくて正解だった。

 彼が饒舌になるのは決まって怒っている時だ。抑揚がないから分かりづらいがアズハはそれが分かるぐらい彼のことを見てきた。傍にいた。そしてそんな時に余計な言い訳をすると更に怒って今度は完全にだんまりになってしまう。ここでそれは避けたかった。

 それに、言い訳をしていたら自分は大切なことを完全に忘れてしまっていただろう。今アズハは隊員の1人ではなく、一隊を背負う隊長なのだ。甘えは許されない。

「茜日の開放にこだわるなアズハ。この場にあってなお思い切れないならば『ハート』である資格はないぞ」

 畳み掛けるラムダ。アズハはもっともだと恥ずかしさに頬を上気させる。これでは自分も『形だけのハート』だ、と。思い出すのは出陣前にティナに自分が言った言葉。苛立ちを全てティナに押し付けた結果。――そんなこと言う資格など、なかったというのに。

(……帰ったら、謝ろう――)

 謝らなくてもきっとティナは許してくれるだろう。いつものように笑いかけ、いつものように話しかければ、きっとそれで終わってしまう。けれどそれに甘えるような卑怯な男にだけはなりたくない。アズハは深く呼吸を繰り返すと、痺れる足を叱咤して立ち上がる。手には形を変えぬままの茜日が握られていた。それでもアズハの目は先までにはない強い光が灯っている。

 もうここに、茜日に頼ることしか考えなかった脆弱なハートはいない。いるのは、騎士として立ち上がった1人の男だ。

 後継者の決意に満ちた双眸を見て、ラムダは満足そうに頷く。そして大剣を下ろすと、悠々と数歩分後方へ下がった。それは戦いを見守るという意思表示。

 ここで逃げればいいものを、メーリッドは脅威である先代ハートが不戦を示したことに、そして現ハートが未だ武器を変化できないことに余裕を取り戻したらしい。ニヤリと嫌らしく笑うと爪を鳴らして迫ってきた。対するアズハも茜日を構えて駆け出す。

 完全に不安が拭い去れたとは言えない。しかし向き合わなければいけないのだ。

 この魔者は、アズハの弱さの象徴。――ここで立ち向かわなければ男がすたる。

 力のこもった声をつれて振り上げられた茜日の刃が天を指した。瞬間、目を塞ぎたくなるような眩い光が立ち込める。思わず両の眼を閉じてしまったアズハだが、茜日はしっかりと振り下ろした。すると、手に肉を立つ感触が。鼻腔に血の臭いが。耳につんざく悲鳴が。間も空けずに押し寄せてくる。それらが後方に流れる位置まで駆け抜けたアズハは、そこでようやく目を上げ、息を呑んだ。




 

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