第13話 「決戦! イユVSブルック」 1
時は少しさかのぼる。
ティナが先に飛ばされてしまったのに慌てたものの、まずこの場を打開せねばとイユは懸命に2隊に号令を出しながら紅雪を振るっていた。幸いスペード隊は老練の騎士の集まりなのでイユの負担はかなり減っている。それでも――――。
【うっとうしいのよゴミムシ共がっ!!】
この甲高い声と共によこされるかまいたちに似た強風には本気で参ってしまう。
「んっとに、おぎょーぎ悪いわよお嬢ちゃん」
上空から襲ってくる羽持ちの魔者を切り伏せながら軽口に声をかけると、驚いたことにブルックは返事をしてきた。
【うざいバァーーーッカ! あんたみたいな自己犠牲で悦ってるMヤローにそんなこと言われたくないんだよっ】
「やぁねぇ、痛いのなんか嫌いよ。見なさいよホラ。あんたの風のせいで玉のお肌が傷だらけじゃない」
細かい傷で覆われ血が滴る左腕を上げて文句を言うイユにブルックは不快そうに眉をしかめる。
【バッカじゃない? じゃあ何で《スペード》なんか庇ってんのよ。あんなの放っときゃいーじゃない】
「無理ね」
考えることなく即答したイユ。ブルックは目を細めた。しかしすぐに蔑んだように笑う。
【ああ、あんた知らないんだぁ。じゃいーこと教えてあげる。あたしたちがこんなに強いのはあの《スペード》のおかげよ。あいつのドロッドロの内面があたし達のご飯ってわけ。ホラどう? これでもまだ放っておけない?】
木々に吸い込まれるようにキンキンと反響するほど大きな声を出すブルックの、その嘲った声から、彼女が望んでいるのがイユの絶望を映す反応や絆の崩壊だと分かる。演出としてはとても見事だっただろう。現に聞こえていた騎士たちはざわついた。……その全てが自分の隊の者たちであったことがイユは情けなかったが、今は気にしないことにする。
「ええ、放っておけないわ」
イユは笑顔耐えぬままにきっぱりと告げた。狙いが大いに外れたことへの不快感にブルックは顔を歪める。だがそれは当然の結果。選ぶべき手を、彼女は間違えた。
彼は「ダイヤ」。ダイヤに、心を惑わす戦法は通じない。