第13話 「決戦! イユVSブルック」 4
「これが、変形? あたしにも出来た……それにしても」
感激に目を瞠ったイユは、しかしその形の奇妙さに多少の呆れを覚える。手の内にある紅雪はダイヤ型の刃のついた鋼鉄の棒ではなくしなやかな軟鞭へと姿を変えていた。胸の高さで柄を握ると先端が地面について小さな円を描くほどの長さ。軽く手首を捻るとそれは跳ねるように踊った。随分と反応がいい。イユの目がここに来てからはじめて堅さを崩す。使ったことはないのだが、何故だろう。こういう物を持つと――。
にやりとイユが妖しく笑う。そして。
「オーーーッホッホッホッホッホォッッ!!」
高笑いと共に軟鞭を振るいだした。硬度があるのか武器の威力があるのか、当たった魔者たちは次々に絶命していく。しかも振るった瞬間に大きく伸び、その範囲が常識を遙かに上回るほど広くなるため逃げようにも逃げられないようだ。それでいて騎士たちには一撃も当たらない。感心するに足る出来事であるが、騎士たちはそれよりも、楽しそうに鞭を振るっているイユに「台無しだ」と叫びたいのをこらえるのに必死だった。先ほどまでの誇り高い姿は一体どこへ行ってしまったのか……。
そんな騎士たちの心情とは逆に紅雪は隊長の武器としてふさわしい威力を持って魔者を滅している。徐々に減っていく魔者たちを見て、ブルックは舌打ちした。
【……ッ、この変態! 騎士なら剣で戦いなさいよっ!! 騎士の誇りだなんだとぬかした直後のくせしやがってっ!】
強気に怒鳴ったものの、ふざけた見た目に反する威力は無視できないらしい。ブルックは更に上空に逃げていく。イユは鞭を振るう手を止めないまま彼女を見上げて「ご冗談」と笑った。
「これだって立派な武器じゃない。あたしみたいな膂力のないのはこーゆーのの方がいーで――しょっ!!」
言葉の終わりに大きく振るわれた鞭が空を走って、これまで以上の加速でまさにブルックの眼前に迫る。しかしこの短直な動きでは確実に見切られることをイユは予測していた。恐らく風を起こすか避けるかのいずれかの行動を取るはずだ。そしてそれは確実に成功する。イユが狙うのは、その成功の次の瞬間。避けた、もしくは防いだと思えばどんな相手でも一瞬の隙が出来るものだ。その一瞬の隙さえ見逃さなければ紅雪は必ず応える。どうやら魔者の瘴気に自動的に反応―つまり反射――するらしい相棒は、イユにそれを伝えてきている。
(さぁ、どうするのかしら?)
避けようが払いのけようが、イユの勝利は紅雪の約束の下にある。確信したといってもよかった。
だがその確信は無残に破られることになる。
【――――ふざけるな】
この、腹の奥底から出したような低い声に引き連れられたこれまで以上の烈風によって。