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第13話 「決戦! イユVSブルック」 8
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【このクソヤロウッ! 何あたしの体で怪我してやがんだよっ。助けてやるとかカッコつけながらこのザマかよっ! 畜生畜生、ふざけんじゃねぇッッ!!】

【落ち着けブルック。私に任せて下がっているんだ。これ以上は――】

【うるせぇっっ! テメーなんかにこれ以上頼らねぇよ! この嘘吐きヤロウッ!!】

【ブルック!】

 狂ったように叫ぶブルックとその彼女を必死で宥めようとするザンディス。魔者同士の、しかも同じ体に住まう個体同士の仲違いとも取れるやり取りにイユは何が起こっているのか理解できなかった。寄生型のザンディス。彼と有体の魔者であるブルックは相性がいいはずだ。それなのに、何故こんな言い合いが起こるのだろう。相性がよいのなら互いの尊重をするはずだ。だが、ブルックにそれは見られない。

「……もしかして、あの2人相性はよくないの?」

 先ほどザンディスが彼女を庇っていたのでてっきり相性がいいのかと思っていたのだが、もしかしたらそうではなく単に因縁深いダイヤが相手だから出てきただけなのかもしれない。だとしたら――付け入る隙は必ずある。

 イユは気を引き締めなおし鞭を握りなおした。そして、間髪入れずにいまだ言い合っている魔者たちに向かって鋭く振るう。先に反応したのはどうやらザンディスらしい。

【下がれブルック!】

 心中のやり取りを強制的に終了させたのか、前に出たのはザンディスだった。ザンディスは烈風を起こし、迫っていた鞭をたわませる。イユはすぐに鞭を軽く引き、再び2本にわけ、両鞭でザンディスに猛攻を仕掛けた。

「随分おじょーちゃんに甘いのね。娘に頭の上がらない父親みたいだったわよ」

 攻勢を緩めないまま喋りかけると、ザンディスは鞭を捌きながらふっとゆるく笑う。

【……ダイヤらしい観点だな。そういうなら見逃してくれないか?】

「お断りよ。魔者に情けはかけないわ」

 魔者に情けをかければいつかはイユの大事なものを傷付けるかもしれない。一時の感傷のために大切なものを犠牲にする可能性を高める真似を、イユは決してしたくなかった。

【そうか】

 ザンディスが微笑む。それがとてもさびしげに見えて、イユは一瞬だけ戸惑った。

【それは――残念だっ!】

 だがすぐにその表情を消して両手が素早く開かれると、ザンディスの手元からかまいたちが放たれる。イユは強く地面を踏みしめ、前に倒れこむようにその場から離れた。一瞬前までいた所がズタズタになったことにぞっと肝を冷やしながら、イユは両手の鞭を大きく振るう。

【何度も同じ手は食わんぞ】

 脇から迫る鞭を更に高く飛びかわし、追ってくる鞭の先端の軌道を起こした風でずらしてかわした。両方の鞭をかわすと、ザンディスは総身に風を纏って豪速の矢の如く回転しながらイユ目掛けて降りてくる。イユは腹が地面につくほど低く伏せた。元々イユの頭があった所を通り抜けた肉を持つ風の塊はそのまま空へ舞い上がろうとする。だが、木々の高さまで上がったところで突然その動きを止めた。否。止められた。

【これは――糸!?】

 その身に絡みつき動きをとどめたのは、まるでくもの巣のように張り巡らされていた細く、しかし頑強な糸。思い切りぶつかったためブルックの皮膚が細かく裂けて血が吹き出す。ザンディスは慌ててそこを離れようとしたが糸が絡まって身動きが取れない。

【クッ、当代のダイヤは紅雪をここまで生かすか……っ!】

 紅雪は戦闘用の4本の武器の中でもっとも変幻自在である。しかし故に扱いが難しく、ザンディスの知る2人のダイヤたちは彼女をここまで使いこなせていなかった。ザンディスは立ち上がるダイヤを見下ろす。

【聞かせろ。何故罠を仕掛けられた? 私が第2撃を放つとは思わなかったのか】

「あんたが逃げるつもりなの分かったからね。最初はあたしを倒してからって考えてたみたいだけど、さっきブルックに怒鳴られてからはどうやって逃げようかってことばかりに頭がいっていたでしょう」

 戦いを望むような発言もはじめて接近戦を用いたのも、戦う意思があるのだとイユに示すため。攻撃してくると思わせておけば逃げ出す時に楽だと考えたのだろう。実際イユは騙されかけていた。だが、紅雪が闘気が散漫していると教えてくれたので気が付いたのだ。

 ザンディスが、その紅雪の言葉すら耳に入らないほど追い詰められていると。

「あたしも聞かせてもらうわ。あんた、どうしてその子を守るの?」




 

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