第13話 「決戦! イユVSブルック」 11
時を少しさかのぼりジョーカー団舎にて。
この建物の主は大窓の前に立ち、少しずつ雲が晴れつつある空を見上げていた。微笑する好々爺の手にあるのは、再び輝きを取り戻した鵠風。
「やはり紅雪の目覚めが一番早かったねぇ」
予想通りで驚くこともない。《スペード》の力の目覚めを感じ鵠風が鳴いた時、すぐに次の目覚めを感じた。それがダイヤ――紅雪の目覚めだ。しかしそれはあまりに分かりきった結果であった。彼は「ダイヤ」に選ばれたその時からすでに開放の条件を満たしている。紅雪開放の条件。それは、情味に満ちている――つまり愛情や友情、人情などの情に溢れていることだ。
それはとても簡単なようで、実に難しい。
情味とはただ優しいだけでは成り立たない。包み込むだけの度量を要する。そしてそれゆえか、歴代ダイヤはたった2人だけで、そのどちらも女性であった。男には無償の愛は難しいということだろう。だがそうでありながら、当代は女性的とはいえ男性。ジョーカーは彼の着任を奇跡ではないかとすら思った。
「ああそうか、紅雪は強さも求めてたんだね。だからイユを選んだんだ」
ジョーカーはうんうんと納得したように頷く。紅雪の最初の主は常に自ら生み出した魔者に囚われていた。次の主はその魔者に食われた。もしかしたら紅雪は恐れていたのかもしれない。優しさを求めたのは彼女だが、それのみの人間は紅雪の元から離れてしまいやすいということに。
そのため、優しく、強い人間を選んだ。
「頑張るんだよイユ。これ以上紅雪を悲しませてはいけないよ。――おや、烏葉と茜日も目覚めたね」
ポゥ、と淡い光が強まったのを見てジョーカーは嬉しそうに微笑む。これで条件は整った、と。そして指先で軽く球体を叩いた。うすぼんやりと光る先端の玉の中には、今彼がもっとも心配している少女の姿が映し出される。
ジョーカーは鵠風を高く掲げた。
「さぁ鵠風。お前の知識をあの子に見せてあげておくれ」
ジョーカーの願いに応えるように、淡い光が部屋中を満たす。