既視感が湧くわけだ。

「あんた私そっくり」

　そうやって相手を理不尽に責めるところが特に。

　意識が浮上した瞬間、ティナはディストレスを真っ向から見つめて昂然と言い放った。あちらであれだけ長い時間が経っていても、現実では瞬き一度ほどの時間であったために、ディストレスはティナの豹変に言葉を失う。

「ほんと、何でこんなに？　って思うぐらいそっくり」

　きっとレティシアを責めていた自分はこんな顔をしていた。ゆらゆらと瞳を揺らしてわめき散らして。そしてレティシアはそんな自分を救おうとしてくれていたのだ。ディストレスを救いたいと思った気持ちは、間違いなく彼女が与えてくれたもの。

　先ほど彼女に全てを託して自分から逃げ出そうとしたためか、本当に驚くほどすっきりと彼女に対する劣等感や拒否感は消えている。――もしかしたら、「あの言葉」を聞いたからかもしれない。ずっとレティシアが言い続けた、あの言葉。聞いた瞬間レティシアを拒絶することの全てが馬鹿らしく思えてしまった。ティナにとってはある種《スペード》の力より奇跡に近い。

【――だから!?　哀れんで殺されてくれるの!?】

　ぎりっ、とディストレスはティナの制服の首の辺りを締め上げる。それに顔をしかめながらも、ティナはもう恐れなかった。

「冗談。私はこの場を収拾しなくちゃいけないんだから絶対死ねない。私は、《スペード》だ」

　同じ言葉を、一体どれほど繰り返しただろう。しかしそのどれよりも、今の宣言は清々と、かつ堂々としていた。ディストレスは意表を突かれて驚いた顔をして知らず手の力を抜く。その時の顔は誰がどう見ても、ティナのそれと見た目どころか雰囲気まで似通っていると言っただろう。







　緊張が和らいだのを見て取って、静観を決め込んでいたジャズベリンは非常に焦った。たった一瞬で、何があったか知らないが《スペード》は見事に立て直してしまったらしい。この位置からではその会話は聞こえなかったが、間違いなく原因はディストレスだと、ジャズベリンは勘違いして歯噛みすると拳を握り締める。

　あの女め、なんと余計なことを――っ!!

　多少のことは我慢しようと決めたし、実行だって可能だった。しかしこれは許せない。大切な食料源であるだけではなく、ティナが絶望していることは魔者たちには絶対の盾であったのだ。それが、同じ魔者の手によって破られた。――許せる訳が、ない。ジャズベリンは音もなく片手を高々と上げ、次いで振り下ろす。応えて控えていた魔者たちが一斉に飛び出し少女達に向かっていった。互いしか見ていなかった2人の反応は遅い。

　殺れる。

　ジャズベリンが薄く笑ったその時、凛とした声がした。

「やらせないわよ」

　高い風鳴り音の後、しなやかな物質が広範囲の魔者たちを滅していく。力の供給源を無くした魔者たちには抗える力などなきに等しい。

【な、にぃ……っ!?】

　驚愕に見開かれたジャズベリンの目に、見たくない多く人影が映った。