――そうして空を跳び回った結果が、今である。興奮気味のトマスに、すでに体験済みの子供たちは「そうだろう、そうだろう」と胸を張っていた。彼らにしてみれば、自分たちの友人が褒められたことの喜び、かつ自分たちがこの遊びを先に知っていたことの優越感があるのだろう。
「最初はね、ハーネスベルトなしで跳び回ってたんだけど、姉ちゃんに怒られて、みんなの保護者の人たちからも『子供を背負う時はお願いだから安全な方法で』って言われちゃって。そしたらラリーさんがこれ作ってくれたんだ」
言いながらロナルドが摘まんだのはトマスがつけたままのハーネスベルト。多少の弾力性がありながらしっかり固定されているそれに、開発者の技術の高さを感じた。
「いい発明ッスね〜。オレ多分これなかったら乗るって決意出来なかったかも。あはは、こんな小さい子たちがやれたこと出来ないんじゃ情けないッスけど」
軽い自虐を込めて笑っていると、はっとしたアベルが小走りに駆け寄って来てトマスの袖を何度か引く。
「あの、僕は最初怖くて乗れなかったんですけど、このベルト出来てからみんなと遊べるようになったんです。情けないな、って僕も思ってました。でも、みんなはそんなことないって言ってくれて。だからあの、トマスさんも情けなくないです! 一緒です」
必死のフォローにはただただ優しさが込められていた。思わずぽかんとしてしまったトマスも、じわじわとそのあたたかさが胸に伝わるにつれ、自然と頬が緩んでいく。
「アベル君と一緒ッスか! それじゃあ全然情けなくないッスね」
仲間仲間、とトマスがアベルの両手を握って上下に振るった。手を取られたアベルは自分の言葉が通じたことを喜びつつ、やはりどこか照れくさそうな顔で少し俯く。口元は笑みを隠しきれない様子で歪んでいた。
「それにしても、仲良くなったのがみんな年下って言ったら、『精神年齢が近いからだな』とか姐さんに笑われそうッスねー」
かつて今の自分と同じような立ち位置にいた男も、実はここでは年下ばかりと仲良くなっていることを、この時のトマスは知らない。
「あはは、年下って言っても、トマス君僕たちと年そんなに変わらないでしょ?」
「私たちよと同じか、1つ2つ上ぐらいだよね?」
先ほどトマスの年を訊く前に話が別に移行してしまっていたことを思い出したのか、ロナルドとアルバが年齢の話に乗ってくる。彼らが出した前提に、自分の予測が正しかったことを確信したトマスは「いやいや」と笑って自分の顔の前で手を振った。やっぱり勘違いしていたようである。
「俺もう20歳超えてるッスよー」
さすがにそろそろ自分が童顔ということをきちんと認識しているトマスは、怒りも焦りも悲しみもしない。ただただ笑い話のひとつとしてそう答えた。
だが、少年少女には刺激が強すぎたようだ。ぽかん、と口や目を見開く子供たちからは、一瞬すべての音が消える。そして数拍後、タイミングがほぼ揃った驚愕の声が風吹く宮に響き渡った。