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 ダニエルとジェイムズがステージを降りると、謝は早速次の組の選出を開始する。そして出された名前は、今回2度目の男女のそれ。

 

 トーキ(『僕らの世界』)

 秋菊(『風月記』)

 

 男女とはいえ前線で戦う秋菊の衣装は危惧する女性的なものではない。ほっとした様子をトーキが見せると、次の瞬間彼と秋菊はステージ上に召喚される。召喚方法が安定していないのか、2人は床に背中合わせに座り込んだ状態で放り出されていた。

「トーキ殿、私の衣装で大丈夫ですか?」

 首を巡らせた秋菊が軽く微笑みながら問いかけると、トーキはすぐに頷いて見せた。

「はい、大丈夫です。秋菊さんも、僕ので大丈夫ですか?」

 トーキの問いかけに秋菊が是を唱えると、合意と見て謝が衣装交換を合図した。


トーキと秋菊

 双方の衣装が交換され、秋菊は髪を首の後ろ辺りでまとめ、トーキは短い髪の一部を頭の両側で小さくお団子にしている。住民たちと真正面から顔を合わせる形になってしまったトーキは照れた様子を見せ、背中を見せる形になっていた秋菊は軽く振り向き笑った。

「あはは、トーキ君可愛い〜」

「秋菊さんカッコいいー!」

 やんやと歓声が上がると、トーキも秋菊も照れたような笑みを浮かべて顔を見合わせる。ほのぼのとした空気が流れるが、何故か会場の一部だけ空気が冷えていた。その中心にいるのはトーキの父・ヴィンセントだ。

「……可愛い、可愛いですか。ええ、愛息子ですから可愛いですが、その意味の可愛いは駄目ですねぇ」

「ヴィ、ヴィンセントさん……?」

 ぶつぶつと言っているヴィンセントの異様な状態に気付いたガーリッドが声をかけると、ヴィンセントはにこやかな笑顔を彼に向けた。

「ちょっと息子鍛え直してきます。男らしくないのは駄目ですねぇ」

「ちょちょちょ、ヴィンセントさん! ヴィンセントさん落ち着いてください企画です企画。トーキだって分かってますし今の可愛いはただのからかいみたいなもんですから!」

「ははは、分かっていますよガーリッド君」

 分かっている、と言いながらもヴィンセントの足は止まらない。止められるだろうユーリキアやレイギアは笑って見ているばかりで助力してくれる気配もないので、弟子のためにガーリッドは奮起した。

「分かりました、分かりました俺が後で鍛えなおしておきますから! ちゃんと面倒見ますからとりあえずここは落ち着いてください」

 必死に説得を続け、周りも何事かと気にし始めた頃にヴィンセントはようやく納得した様子を見せて歩みを止める。最初の位置からガーリッドと引きずって1メートル以上進んでいた。

「ふむ、仕方ありません。今回はガーリッド君に免じて目を瞑りましょう」

「やぁねぇ、ヴィンスったら必死になっちゃって。いーじゃない可愛いなんて言われるのどうせ今の内だけなんだから」

 呆れたように妻であるユーリキアが言うと、「しかしですねユーリ……」と何故かアーザ夫妻の不思議な夫婦喧嘩が始まってしまった。

 その様子をステージ上から見ていたトーキは戻っていいのかどうか分からなかったので秋菊についていくことにしたのだが、後でミヤコたちから「トーキ君逃げたー」と文句を言われることになる。

『さて、それでは皆様次へ参りましょう』

 ステージ下の騒ぎなど気にしない謝がさらに進めようとすると、咲也が手を挙げて彼を呼びかけてそれを留めた。いつもの彼らしくない進行ぶりに流石に違和感を覚えたのだ。

「謝さん今回なんかやけに進行早くないすか?」

 問えば、同じ事を思っていた者たちの視線が集まる。もしや本当にこの企画への不満の表れなのか……と思ったのは束の間。「そうですね」とあっさりと肯定した謝は、双眸に使命感を映して咲也を見返してきた。

『何せ風吹く宮総勢112名、56組分の着せ替えを行うよう言いつけられておりますので。申し訳ございませんが、少々駆け足にて行わせていただきます』

 ぺこりと頭を下げると、謝は再びモニターを動かすように指示を出す。それを見て、住民たちは鬼進行の本当の理由を、そして彼が何故そこまでやる気を出しているかを理解した。この企画の打ち出し主がどれだけ本気だったかは知らないが、その言葉を叶えんとする彼はいつでも本気だ。

 これは本当に全員分回ってきそうだ。理解すると、それまで乗り気でなかった住民たちすら最早やけになった様子を見せる。

「あーもう、こうなったらとっとと終わらせるに限る! 次俺来い俺」

「あたしトランプ騎士団の制服着てみたーい」

「げっ、うちの女ティナしかいないんだぞ。男来い男!」

 なるべくダメージが少ない衣装が来るように、と、特に男性陣の祈りは強い。それが叶った者が喜ぶ声、叶わなかった者が嘆く声、ただただはしゃぎ合う声。その騒ぎは、時計の針が翌日を刻むまで続くのであった。



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