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<江東恋歌>

                   終

 初めて出会った時、彼はまだ小さな子供だった。

けれどその温かな眼差しに何時からか惹かれていった。

優しげな眼差しの中に見える強く気高い魂が、いつの間にか愛おしくて仕方なくなった。

いつだってさり気ない言葉で私を支えてくれる彼が、何より大切に思えた。

「仲謀」と彼を呼ぶのになんてすぐに慣れた。ずっと心の中で呼んでいたから。それでも彼を「阿権」と呼んだのは彼の意識をこっちに向けたかったから。

 そんな愚かな事をするほど、私は彼に恋をした。いつからなんて分からない。そんなの「いつの間にか」。

 けれど永遠に言えない言葉。だって彼は王になる。

私はその傍らで、王の手となり足となるしか出来ない。――――それならそのために生きよう。

嘆くことなど何もない。それが私の愛の形になる。

私は彼の奥方が付いてこられない場所で彼の隣にいられるのだから。

 だから誰にも言えないこの心は、全てを見守る江にだけ聞いてもらうの。

 永遠に届くことのない想い。

それでもあの人を想って、私は江に恋を歌う。







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風吹く宮(http://kazezukumiya.kagechiyo.net/)